経営戦略におけるSEOの役割とリスクとは!?

今回のテーマは、エンタープライズ、企業におけるSEOです。

大手WebメディアやWeb企業は、なぜSEOを重要な経営戦略としているのでしょうか?

その理由をご説明します。

さらにSEOの期待役割、SEOのメリット・デメリット、アメリカの上場企業の決算書から読み取れる経営視点でのSEOについてお伝えしていきます。

エンタープライズSEOを理解して、経営戦略にSEOを活かす際の参考になれば幸いです。

なぜSEOなのか?

今回のテーマであるエンタープライズSEO、企業向けSEOは、主にWebメディアにおけるSEOです。

なぜ大手WebメディアやWeb企業は、現在のSEOを重要な経営戦略として使っているのでしょうか。

私なりの結論は次の3点です。

プールが最も大きい

ユーザーが何かの情報を得ようとしたとき、最初にすることは検索でしょう。現在では、Google検索ですね。世界中のほとんどの人が、「カメラがほしい」と思ったら、まずは「カメラ」と検索するでしょう。

意図が明確

検索サーチマーケティングのメリットは、キーワードが用いられることです。

キーワード=ユーザーの検索意図・やりたいことなので、キーワードではユーザーの欲するものが明確です。「カメラ おすすめ」で検索する人はカメラの情報しか求めていませんし、「おすすめ」で検索する人は、購買意欲が高いことがわかります。

キーワードを狙うことで、顧客層を始めから狙えるということですね。

対策手法の存在

さらにSEOに関しては、アルゴリズム対策で集客数の向上を図ることができるというメリットもあります。

この点には賛否両論あるでしょう。「SEOはユーザーのことだけを考えていれば上がる」という考えもあります。

しかし事実として、検索順位はアルゴリズムでのみ決められています。そのため、アルゴリズムを考慮し対策することで、順位上昇を図ることができます。

さらにSEOでは、アルゴリズムを考慮することで、無料で集客ができるというメリットもあります。

以上のように、「なぜSEOなのか?」という疑問に対しては、

  • プールが最も大きい:何か情報知りたいとき、多くの人がまずGoogle検索する
  • 意図が明確:意図が明確な人だけを狙って集客できる
  • 対策手法の存在:SEOに対しては、対策手法が存在する

といった回答になります。

この3つの理由から、SEOはビジネスで大切な集客において最も有効的な手法の1つと言えるでしょう。

Googleに頼らず、ゼロから集客母体を作ったら?

Googleはこれまで長い年月をかけて、多額の投資をして、ユーザーが常にいるプールをつくりあげました。そのプールのなかでマーケティング行えることが、SEOや検索エンジンマーケティングの1つのメリットです。

もし、このプールをゼロからつくったらどうなるでしょうか。

まず、多額の投資をしてTVや雑誌、オンライン、街頭などで広告を出し、多くの人に認知してもらう必要があります。しかし、そのようにお客様を集めても、本当に欲しかったお客様はその全員ではなく、ごく一部でしょう。

そのため、「投資額÷本当に欲しかったお客様」と考えると、顧客獲得単価が非常に高くなります。

さらに、プラットフォームをゼロから作るなら、想起してもらう必要があります。

例えば「動画サイトといえば?」というと、「YouTube!」とパッと思いつきますよね。

このように想起してもらうためには、多額の投資をして広告を打ち、狙ったお客様にリーチして認知してもらう必要があります。さらにユーザーに刷り込むには、長期的に継続しなければいけません。

この手法が可能なのは、多額の投資ができる企業体力のある会社くらいでしょう。

Googleというプラットフォームを利用する経営的メリット

Googleは、世界中の人が「何か調べたい」と思ったときに、第一想起に入っています。

私たちはGoogleのプラットフォームのなかでいかにマーケティングするかを考えれば良いので、プラットフォームをつくる必要がありません。これは検索エンジンマーケティングにおいて、1番の経営戦略的なメリットです。

Googleのプラットフォームでマーケティングするメリットをまとめると、

  • SEOでもリスティングでも、キーワードを絞って顧客を狙える
  • 投資額は少額で済み、顧客獲得単価もマス広告と比べて非常に安価

 となります。

以上から、経営戦略的な目線から見るSEOのメリットは次の3点です。

続いて、これらのSEOのメリットを活用している経営戦略の実例をみていきましょう。 

SEOを有効活用している会社

SEOによる経営戦略を有効活用している会社は数多くあります。今回は、その内の3社をご紹介します。

メルカリ社の事例

まずご紹介するのは、メルカリの事例です。

メルカリの決算書をみると、アメリカに進出する際の企業認知を図る手法の1つに「SEOの最適化」を挙げています。

実際どれぐらいの成果が出ているのでしょうか。

弊社で独自にmercari.comの検索流入推移を調べると、結果は次のようでした。 

棒グラフが1~3位のヒットキーワード数、線グラフが想定の検索流入数です。6月から右肩上がりで伸びていますね。さらに12月から急激に伸びていることもわかります。

すでに顧客・認知の取れている日本国内と比較してみましょう。

日本ではゆるやかに伸びているのに対し、アメリカでは急激に伸びています。これは、アメリカはこれから急成長していく段階なのに対し、日本ではある程度面を取り切っている状態だからですね。

アメリカでの認知度上げるためにSEO施策に取り組んでいて、実際に成果出ていることがわかります。

それでは、実際にどのようなキーワードで取っているのでしょうか。例えば、”rae dunn halloween”というキーワードは、検索ボリューム9900です。

実際に”rae dunn halloween”で検索すると、こちらのページが1ページ目に出てきます。

メルカリの存在を知らなかったアメリカの方が「このブランドのハロウィンのアクセサリーがほしい」と思って検索をすると、このページにたどり着きます。そしてメルカリの存在を知り「自分の欲しいものいっぱいありそうだ。送料無料もあるな」と思って、メルカリのユーザーになります。このような流れで認知が取れるんですね。

最初の接点作りにSEOを採用し、SEOでの順位表示で成果が出ているので、実際にユーザー数も増えているのだと思います。

エニグモ社の事例

続いてご紹介するのは、BUYMAというサイトを運営されているエニグモの事例です。

日本国内で非常に売り上げが上がっているなか、さらなる増加を目指し、グローバル事業、海外サイトにも力を入れていることが決算書から読み取れます。

こちらは、BUYMA.usというサイトの、2020年1月期の主な取組内容を示したものです。

「SEO対策に注力し、オーガニック流入数は上昇」とあります。グラフを見ると、右肩上がりにグッと伸びていますね。

そこで、実際にどういうキーワードでアメリカのお客様を流入したのかを調べてみました。

例えば、”chrome hearts glasses”という検索ボリューム6600のキーワードで1位を取っています。ランディングページはこちらです。

メルカリと同様、BUYMAというサイトを知らなかったアメリカの人が、「クロムハーツのメガネが欲しい」と思って検索し、「このサイトはいろんな商品があり、日本でしか、海外でしか手に入らないものもある。使ってみよう」となり、BUYMAのアカウントユーザーになる流れができていますね。

実際に決算書にも、BUYMAグローバルの事業に注力すると書いてあるので、SEOは経営戦略的にも非常に貢献していることが読み取れます。

Cars.com Inc社の事例

続いて、海外の事例で「Cars.com」というサイトを見てみましょう。1998年に創業された自動車のクラシファイドサイトです。日本でいう、カーセンサーやグーネットに近いですね。NY証券取引所に上場している、時価総額430億円の非常に大きな会社です。

Cars.comの流入チャネルがこちらです。

一番多いのがダイレクト流入です。ブックマークや、”Cars.com”で検索して入ってくる方ですね。

次に大きいのが、同じくらいのボリュームで、オーガニック検索です。つまり、集客の半数以上を自然検索経由で獲得しているサイトになります。

この会社の2019年第4四半期の決算説明資料をみてみると、SEOについて書かれているページがあります。

「SEOのリーダーシップは続いている」とあります。「SEOで、Cars.comがリーダーシップを発揮している」と言いたいんですね。

さらに見ていくと、「serchmetrics」という会社のサイトが載っています。ちなみに、searchmetricsとは、弊社のキーワードマップのようなSEOのツールです。 

ここで経営者は、「SEOツール会社のsearchmetricsが『Cars.comが自動車関連領域において最もSEOで集客を伸ばした』と言っている」と、決算書で発表しています。

続くスライドには、AhrefsとSEMRushというSEOツールの想定SEOトラフィックのグラフがあります。

ここで経営者がアピールしたいのは、「競合サイトと比較しても、Cars.comがSEOで成功している、集客数伸びている」ということです。

おそらく自分達の言葉だけでは信憑性に欠けるので、第三者のツールを使ってプレゼンスを高めているのでしょう。

決算説明会の議事録見ると、Cars.comがSEOを重要視していることが明らかです。こちらは決算説明会の議事録の冒頭です。

まとめると、次のようになりますね。

  • SEOはCars.comにとって重要な集客原である
  • SEOは最も費用対効果が高い方法である
  • 3月12日のGoogleアップデートは他社にペナルティを与えたが、Cars.comの順位あがった
  • その理由はオリジナルコンテンツ、ユーザーエクスペリエンス、品質に注力したから

この冒頭文から、Cars.comがSEOを重視していること、そして国内外問わず、オリジナルコンテンツやUXの品質向上がSEOの近道であることが読み取れます。

3社の事例から、

  • SEOに企業的に注力している会社は、結果的にSEOが収益増加に大きく寄与していること
  • SEOは自信を持って投資家に説明できるくらいに重要な経営資産であること

がわかります。

しかしSEOにはメリットだけでなく、デメリットもあります。

Expedia Group社の事例

例として、旅行比較サイトを運営されているExpedia Group社の決算書をみてみましょう。2019年第3四半期の決算説明で使われたものです。

財務結果をみると、総売上高と売上高は前年同期と比べて、それぞれ9.1%、8.6%増加していますね。しかしここで注目したいのは、営業利益がマイナス9.4%になっている点です。

この理由は、Selling and Marketingの項目にありました。

つまり、前年同期と比較して売上高は上がったけれど、その費用も重なって高コストのマーケティングにシフトせざるを得なかったので、営業利益はマイナス9.4%になってしまったという状況です。

では、この決算説明を終えて投資家たちはどのように反応したのでしょうか。株価を見てみましょう。

まず決算発表するまでは、株価はほぼ横ばい推移状況でした。しかし、決算が発表された瞬間に下がってしまいました。

「売上は1割増だけれど営業利益が下がった」という経営体質を投資家は評価しなかったんですね。そしてその後も、株価は戻っていません。

「売上を伸ばすと同時に営業利益もあげないと評価しない」という、OTA業界における投資家の考えや、営業コストが経営者にとって重要な指標であることがわかります。

この状況に至る一番の要因だった、高コストのマーケティング施策はなんだったのでしょうか。議事録をもう少し読み解いていきましょう。

最高執行責任者・社長のMarkさんが次のように述べています。

営業コストが上がった原因は、SEO低下により高コストなマーケティングにシフトせざるを得なかったから、ということですね。

この説明会には多くの投資家やアナリストがおり、質疑応答が行われています。ここからは、議事録にある質問をみてみましょう。

まずは、投資銀行CowenのアナリストKevinさんからの質問です。

この質問に対する、Markさんの回答がこちらです。

少し分かりづらいですが、私なりにまとめると、

  •  Googleのホテル広告やフライトモジュールが出始めた結果、SEOのリンクが下に追いやられてしまった
  • そのためSEOトラックが減少したが、Googleのホテル広告でもインプレッション取れ、トラフィック集客を獲得し続けることできた
  • しかし、トラフィックが来ていた場所でのリターンほとんどなかったので広告費用対効果は下がった

となります。

続いての質問をみてみましょう。

やはりSEOのページが下に追いやられたため、多くの人は有料広告からリンクを経由していると考えられ、Googleの有料広告への移行はExpediaにとって逆風になる、と考えているんですね。

Googleホテル広告とかフライトモジュールは、ExpediaのみならずOTA(Online Travel Agency)業界にとって大きな逆風だったと思います。

皆さんもこういったホテル広告をご覧になったことがあるでしょう。こちらは2018年10月頃リリースされたもので、ホテル業者向けの商品です。

このような広告が出るまで、検索結果は次のようにリスティング広告枠と自然検索枠でした。

しかし、ホテル広告が入ったことで、元々のSEO枠は下に追いやられ、例えSEOで1位を取っていてもユーザーから見ると1位ではなくなってしまいました。

当然多くのユーザーは上から見ていくので、ホテルを検索するユーザーは上位に表示されているホテル広告から申し込むことが多くなります。

OTA事業者からすると、リスティング広告にもホテル広告にも出稿する必要があり、多くの広告費が必要になりました。

ビジネスモデルを見るとわかりますが、このような流れはOTA事業者にとって大きな打撃です。

OTAは、SEOや広告で顧客を集客し、申し込みをしていただき、ホテル業者にお客様を送客します。その送客に対して、成果報酬や固定費で広告費をもらい、収益源としています。この形態では、顧客獲得コストが上がれば上がるほど、利鞘は下がります。

今回のExpediaの事例では、ホテル広告が急増するなかでプレゼンスを維持するためするために広告費を支払う必要がありました。そのため、売り上げ・集客自体は増えたけれど広告費がかさんで利鞘が下がり、営業利益マイナス9%となってしまったんです。

このようにGoogleの仕様変更や広告商品の変更によって、Expediaのような大企業でも影響を受けてしまう点が、Googleプラットフォームに依存し続けるデメリットかと思います。

Expediaの決算説明会でも、アナリストからのSEOに関する質問が多くでています。なかでも面白いと思った質問がこちらです。

BERTはSEO業界の人しか知らないようなことですが、このJPN証券の方は知ってるんですね。この質問が出てくるということは、ExpediaにおいてSEOは切っても切れないものであり、投資家も詳しくなっている、という状況ができていることがわかります。

質問に対する回答がこちらです。

※「不動産」とは「元々あった枠」を例えた言い方です。

先ほどお伝えしたように、Googleのプールのなかでマーケティングをすることには、投資額が少なくても本当に欲しているお客様を獲得することができるという大きなメリットがあります。

しかし一方で、生きるも死ぬもGoogleの手の中になってしまうというデメリットがあります。 

Googleの広告製品が1つ変わっただけで、クォーター単位の売り上げが2兆円ある会社の営業利益が約1割は下がってしまうくらい、Googleの意向は大きな影響を持っているのです。

SEOのデメリットへの対処法は?

では、このGoogleのプールでマーケティングをするデメリットに対してどう対策するべきでしょうか。

エニグモ社の事例

エニグモがとても上手く対策されているのでご紹介します。

エニグモの決算書をみると、購入者向け支度についての項目で、新規獲得を開拓した後もマーケティングオートメーションツールを本格稼働させることによって、LTV(Life Time Value)をあげていくことが明記されています。

これは第一想起するきっかけ作りでもあり、一度SEOを通して獲得したお客様を継続的に収益化していくための施策かと思います。SEOを上手に活用し、かつ経営安定させる経営戦略ですね。

私の体験事例

続いて、SEOは初回のお客様獲得にはとても良い手法・媒体であることがわかる、私の個人事例をお話しします。

私は毎年12月頃になると年末年始どこ行こうか考えます。そこでの第一想起は、Agodaという旅行比較サイトです。

私がAdodaを使い続けていますが、その理由は次の4つです。

  • ログインが楽
  • 検索に不自由しない
  • 過去を申し込んだホテルで失敗した経験がほぼ無く、信頼できる
  • 価格も妥当と思われる(比較したことはないですが)

旅行予約における私の一番の問題は、「面倒くさい」という点です。

その私にとってAgodaが一番いいなと思ったのは、Facebookでログインできる点です。

毎回アドレスを使ってログインすると面倒ですが、Agodaではいつも使っているFacebookでログインできるのです。

当然Agodaをはじめて知ったのは、Google検索でした。

5、6年前にバンコクに旅行へ行こうかなと思い、「バンコク ホテル おすすめ」で検索するとアゴダが1位で出てきたんです。

実際に使ってみると、Agodaでは私が回避したい“不”である、面倒なこと・時間をとられることがサイト内のUXで回避できました。その便利さがしっかり脳内に刷り込まれたので、その後もAgodaを使い続けています。

SEOがなれけば、私はAgodaを知りませんでした。Agodaからすると、私という継続的にお金を落とす顧客を捕まえることはできなかったでしょう。

SEOを利活用する方法

はじめにリスティング広告で接点づくりをするのは必要です。しかしそれで終わってしまうと、毎回毎回ユーザーさんと接点を作るためにSEOを続けなければいけません。さらに、Googleの仕様変更があれば、今まであった接点が失われてしまいます。

しかし、1度つくった接点をその後ずっと活かし続けることができれば、SEOの資産は継続に積み上がっていき、Google検索から集客し直さなければならない状況も打破できます。

これがまさしく、「SEOの利点を活かしながらSEOに依存し続けない経営」の仕組み作りでしょう。この点で、エニグモが行っている購入者向け施策はとても考えられた戦略かと思います。

SEOを攻略するだけではなく、集客した後にどのようにLTVを上げていくかを考えること。さらに、お客様のニーズとニーズの手前にあるインサイトを考慮して、自社の強みを発揮できる領域を探すことがポイントです。

これらを考慮して、製品やUI、UXをつくり、接点づくりでSEOを活用すると、低コストで安定性もある中長期的な経営戦略が可能になります。

SEOを利活用してメリットを最大限に受けながら、デメリットもカバーする経営基盤をつくることができます。